0021AEDを使えますか?

 

関西でサラリーマン勤務していた2010年3月初旬の朝8時頃の話をします。

私は、社会保険労務士の資格を持って人事部門で働いていました。当時は従業員の健康管理も私の仕事の一部でした。

勤務先のビルは自社ビルで従業員は900人位在籍していました。ただ朝8時頃はまだ出社人数もまばらで、私たちがいた6階に出社している人は、まだ20人くらいだったと思います。

 

その時です。出社しているAさんが、急に悲鳴を上げて倒れたのです。映画の一場面のような断末魔の悲鳴のようでした。Aさんは、巨漢で机と机の間に大の字になってドスンと音をたてて倒れました。

「もしかしたら心臓発作かもしれない」と思い。AEDを取りに6階から1階に向かいました。

 

当時AEDは会社に2個あって、1つは2階の健康推進室内にありました。しかし、常駐の保健師の出社はまだで、ビルの防災センターに鍵を取りに行って開けるには時間がかかると思い、もう一つの1階のジュースの自動販売機の中にあるAEDを取りに行きました。

当時、AEDを追加購入する予算が無かったので、飲料ベンダーから提案された、自動販売機の受取手数料とAEDのレンタル料を相殺できるという仕組みを採用して、2台目のAEDを確保していたのです。

AEDは簡単に取り出すことができ、それを持って1階から6階まで駆け上がりました。

ただ走りながら「これ、どうやって使うの?」と不安がよぎりました。

現場に戻ると、当時の上司が「AEDの講習を受けたものはいるか?」とそこにいる全員に問うと、一同「しーん」となりました。そこにいたメンバーは誰も講習会を受けた人がいなかったのです。

しかし私は思い出しました。自動販売機の担当者から「AEDを開いたら、AEDが勝手にしゃべりますのでそのとおりやって下さい。」と言っていたのを。

「じゃあ、まず開けてみましょう」と言って開けたら本当にAEDがしゃべりだしました。

 

AEDの指示どおりに、若手の社員が、Aさんの上半身の衣服を脱がして、2枚の電極パッドを胸に貼り付けました。

それを装着するとAEDは「心電図を調べています。身体に触れないでください。」と言いました。

みんなじっと息を止めて待っていたら。

今度は、「電気ショックが必要です。充電をしていますので身体から離れて下さい。」と言うではないですか。心の中で「やっぱり心臓止まってる!」と声をだしてしまいました。

すると数秒後にAEDが「点滅しているボタンを押してください。」と言ったので、誰かが恐る恐るそのボタンを押しました。

すると「ドン」と音がして、巨漢の体が10センチほど浮いたような気がしました。

その時、Aさんの息が吹き返した感じがしました。

それから、AEDが「直ちに胸骨圧迫と人工呼吸をはじめて下さい。」と命令しました。

若手の男子社員が、前にでてきてAさんの胸をリズムカルに圧迫し始めました。(※1)

 

私は、ここは任そうと判断して、手の空いている人を3人ほど引き連れて、救急隊の動線を確保しようと防災センターに走りました。まず防災センターの人に、救急隊の侵入場所の鍵を開けさせ、出社の混雑が始まる時間帯も近いので6階に上がるエレベータを確保し1階で止めました。

次に、健康推進室の鍵を防災センターから手にいれて、健康推進室に行きロッカーの中から、Aさんの健康診断の結果報告書や健康記録を探してコピーして、救急隊に搬送先の病院に渡すように手配しました。

そして、息を切らせて現場に戻ると、まだ胸骨圧迫をやっていました。聞くと。

「さっき、再度AEDが心電図を調べて、また電気ショックが必要とのことなので実施した直後です。今は胸骨圧迫をするように指示されています。」とのことでした。

何人かの若手社員が必死で、交代、交代で胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返していました。

その頃になるとサイレンの音が近づき、やっと救急隊がやってきました。

救急隊員は、状況を確認して、いくつか質問をして、私がそれに答えて、Aさんの健康情報のコピーを受け取って、素早くストレッチャーに乗せて、救急車に戻り、近くの救命救急のある市民病院に搬送して行きました。

時間はとても長く感じましたが、おそらく10分程度だったようでした。

後でAさんに聞いたら、救急車に乗る時には意識が戻っていたそうです。

 

その後の話です。

その2日後には、病院に行きAさんと話すことができました。

医師から説明を受けて、心肺停止して1分1秒手当が遅れると、脳に酸素がいかなくなって、脳にダメージが来て最悪植物状態になることを知ったそうで「怖くなった」と言っていました。

若手の社員が、必死に胸骨を圧迫して、人工呼吸や、肺に残った酸素を脳に送り続けたおかげだと伝えました。

その後のAさんですが、健康管理もしっかりしてグループ会社の役員に就任し、任期をまっとうし、今もすっかりお元気に暮らしているとのことです。

 

一方で会社の方は、消防署がAEDを解析して、非常にタイムリーな処置ができたと市から表彰を受けました(自分の会社の従業員を、会社が救って表彰されるのは「むずかゆい」思いでしたが)。

そしてこの件は、会社の全国の事業所やグループ会社の衛生委員会でも議論されて、各事業所へのAEDの設置やAEDの講習会が進みました。

その中で、「女性が倒れた場合どうするの」(※2)とか、「善きサマリア人の法」(※3)の問題など、議論になったことを覚えています。

 

このケースは「従業員を救えたケース」ですが、当時国内グループ3,000人を超える会社だったので「従業員を救えないケース」もあり、遺族への悲しい対応を少なからず経験をしました。

その度に、従業員の健康意識の改善や健康管理体制も構築する必要があると感じて活動してきました。

2015年に経済産業省が始めた第1回目の健康経営銘柄(※4)を取得できたのも、こういうことを経験してきた健康管理スタッフの多くの蓄積があったからだと思っています。

 

最後になりますが、AEDを使うことは、本当に少ないと思いますが、まずは、消火器と同じで「どこにあるのか」は知っておくと良いと思います。使い方については、この文章にも書いたとおり、AEDを開ければAEDが教えてくれます。

もちろん講習会を受講できればベストですが、YouTubeに動画(※5)がたくさん出ていますので、是非一度見てみることをお勧めします。

 

それでは、皆さま今年一年ご安全に。

 

むすび社会保険労務士事務所

社会保険労務士 佐藤 明

 

 

 

(※1) AEDが到着する前に、呼吸が止まっているのを確認できたら、胸部圧迫をした方が良いようです。

 

(※2) 「女性が倒れた場合どうするの」。

女性の場合は、下着を外さなくても、できるようです。下記サイトを確認して下さい。

「女性にAEDを使うのをためらわないで!!」

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tamafuchu/yakuji/aed_shiyo.files/shizai_1_omote.pdf

 

(※3) 「善きサマリア人の法」の中身は、Wikipediaのとおりです。もし生きていても、脳に障害が残り植物人間となった場合に、助けた人に責任は無いのかという議論をしました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%96%84%E3%81%8D%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2%E4%BA%BA%E3%81%AE%E6%B3%95

 

(※4) 健康経営銘柄

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_meigara.html

 

(※5) AEDのYouTube動画

【日本赤十字社】一次救命処置(BLS) ~心肺蘇生とAED~